「自己破産をすると今まで通りの暮らしが出来ないのでは?」借金を抱えてしまって、自己破産をしたいと思っているものの、こんな不安を抱えている人がたくさんいます。
しかし、自己破産に対して誤解されている面はたくさんあり、多額の借金を抱えている人にとっては大きなメリットがあるのです。
この記事では自己破産のメリットやデメリット、ありがちな誤解を紹介します。
自己破産のメリットとは
自己破産とは裁判所に申立てを行うことで、借金返済の義務を免除してもらう手続きのこと。
債務者の借金を事実上ゼロにすることで、生活再建の機会を与える国が定めた救済手段です。
どうしても借金の返済が出来ないのであれば、自己破産を検討すべきでしょう。
ここからは自己破産の主なメリットを3つ紹介します。
借金の返済義務が免除される
自己破産のメリット1つ目は、借金の返済義務が免除されることです。
税金や養育費など一部例外はありますが、消費者金融からの借入や、リボ払い、住宅ローンなどの債務の返済が免除されます。
債務整理には自己破産の他に「任意整理」や「個人再生」がありますが、いずれも返済額の減額までしかできません。
その点、自己破産は全ての債務における支払い義務がなくなるため、生活を立て直すのに最も効果的な手段と言えるでしょう。
督促や取り立てがなくなる
自己破産のメリット2つ目は、督促や取り立てがなくなることです。
借金を返済できず滞納したままにすると、債務者の元に借入先から電話やメール、手紙などで督促が来ます。
複数の金融機関から借入をしている方は特に、自分の元に頻繁に督促の連絡が来るため、精神的に大きな負担を感じることもあるでしょう。
そこで、弁護士に依頼し自己破産手続きを進めると、金融機関からの督促がストップします。
これは、債務整理の依頼を受けた弁護士が、借入先の金融機関に対して、「受任通知」という債務整理の案件を受任した旨の通知を送るためです。
この受任通知を受けると、債権者は債務者へ直接請求は一切出来なくなります。
そのため督促や取り立てがストップするのです。
一部の財産は手元に残せる
自己破産のメリット3つ目は、一部の財産は手元に残せることです。
「自己破産をすると、財産をほとんど没収されて、まともな生活ができなくなる」と思う人もいますが、そんなことはありません。
生活をするのに必要な衣類や家具など、最低限のものは手元に残せます。
また、自己破産の手続き終了後に得た財産は一切没収されません。
自己破産にはデメリットもある
借金が帳消しになるという大きなメリットの反面、自己破産にはデメリットもあります。
ここからは自己破産の主なデメリットを4つ紹介します。
デメリットもしっかり把握して、自己破産をするかどうかを慎重に決めましょう。
新たな借入ができない
自己破産のデメリット1つ目は、新たな借入ができないことです。
一般的に自己破産をすると、5~10年はローンやクレジットカードの新規申し込みの審査に通らなくなります。
これは、個人信用情報機関に事故情報が登録されるためです。
個人信用情報機関とは、氏名や生年月日などの個人情報や、分割払いやローンの契約状況に関する情報を管理している機関のこと。
主にクレジットカード会社などの金融機関が申込者を審査する際に、信用できるかどうかを判断する材料として利用されています。
事故情報が登録されると、金融機関の審査において「支払い能力がない」と判断され、新たな借入ができなくなる、という訳です。
また、このように事故情報が登録されることを「ブラックリストに載る」と言います。
家や車を失う
自己破産のデメリット2つ目は、持ち家や車を失うことです。
自己破産は、まず破産手続から始まります。
破産手続きは、破産者(債務者)の財産を現金化して、債権者への弁済に充てることが基本で、不足する部分の返済義務が免除される仕組みです。
持っている財産の中でも査定額が20万円を超えるような高価なものは、売却して債権者に分配されることになります。一般的に、家や車は査定額が20万円を下回ることがないため、原則手放す必要があります。
ただし、持ち家ではなく賃貸に住んでいる人は、自己破産しても家を出る必要はありません。
自己破産することで、賃貸借契約が途中で解約になることは、ほとんどないと言えます。
自己破産により持ち家を手放すことになった場合、新しく賃貸契約を結んでそこに住むことが一般的です。
また、マイホームが没収されることになっても、すぐに追い出されることはありません。
自己破産手続きから退去日までは、最低でも半年はかかり、次の家を探す時間はあるので安心です。
手続き中は働けない職業がある
自己破産のデメリット3つ目は、手続き中は働けない職業があることです。
「制限職種」と言って自己破産の手続き中は就くことが出来ない職種があります。
具体的には、弁護士や税理士、警備員など資格が必要な仕事です。
自己破産の手続き中は仕事を辞めるか、資格を使わずに仕事をする必要があります。
ただ、職業制限を受けても、復権をすればまた元通り仕事をすることができます。
自己破産を申告して復権するまでには、復権の仕方によって変わりますが、破産手続を申し立ててから3~6か月程度かかることが一般的です。
官報に掲載される
自己破産のデメリット4つ目は、官報に掲載されることです。
官報とは、国が発行する資料で、自己破産手続きをした人の名前や住所が掲載されます。
官報はよく新聞のようなものと紹介されますが、本屋やコンビニなどでは売っていません。
国立印刷局や東京都官報販売所で掲載されている他、インターネットで配信しています。
一般的に、官報を見る人はほとんど居ないため、官報の掲載を理由に、自分が自己破産をしたことが周りの人に知られることは少ないでしょう。
保証人に影響が出る
自己破産のデメリット5つ目は、保証人に影響が出ることです。
債務に保証人がついている場合は、金融機関は保証人に対して返済を求めることになります。
保証人制度は、本人(債務者)が万が一支払えなくなった場合に備えるための制度です。
自己破産になると債権者への返済することが原則禁止となるため、債権者は保証人へ請求をすることになります。
自己破産の条件とは
自己破産は大きなメリットのある手続きですが、条件もあります。
希望すれば誰でもできる手続きではなく、自己破産には裁判所の許可が必要です。
ここからは、自己破産をする上で必要な条件を解説します。
自己破産できる条件
自己破産できる条件には以下の3つがあります。
①返済できる見込みがない
自己破産では、債務者が返済できない状態なのかが裁判所によって判断されます。
裁判所が債務者の支払い能力を判断をする際に考慮する項目は、債務者の抱えている借金額や収入、年齢、借金をした理由などです。
債務者の状況を総合的に判断し、客観的に借金を返済することはできないかを判断します。
②免責不許可事由にあたらない
「免責不許可事由」とは、借金が帳消しにならない原因のことです。
借金をした理由に問題があったり、不誠実な行動が原因の場合、免責不許可事由に該当します。
免責不許可事由の典型的なケースとしては、ギャンブルや過大な浪費、返済する意思がないにも関わらず、多額の借入を行ったことなどがあります。
③免責許可できない債権であること
金融業者からの借金は、自己破産が認められれば免責されますが、自己破産しても免れることが出来ない支払いがあります。
それが「免責債権」で、具体的には以下のようなものがあります。
- 税金
- 国民年金
- 養育費
- 損害賠償金
- 個人事業主の従業員の給料
- 下水道料金
仮に自己破産をしたとしても、これらの返済義務は残ります。
自己破産の種類
自己破産には「同時廃止事件」「管財事件」の2種類があります。
この2つには申立人(債務者)が所有している財産の状況や、手続きの進め方に違いがあります。
①同時廃止事件
同時廃止というのは、破産手続の開始と同時に手続きを廃止(終了)することをいいます。
現在、ほとんどの自己破産はこの同時廃止として処理されています。
通常、自己破産手続きでは、裁判所によって選任された破産管財人が債務者の財産を調査し、換価(売却)して、債権者に弁済・配当する手続きが必要です。
しかし、債務者に処分するような財産がない場合もあります。
その場合は、破産手続の開始と同時に破産手続を終了させるため「同時廃止」を行うのです。
財産の調査や管理、換価処分を行うことは、時間も費用もかかります。
そのため、同時廃止事件は管財事件と比較すると、短期間で費用負担が少なく済みます。
②管財事件
裁判所が選任した破産管財人が、破産者と債権者の間に入って破産手続きを進める形の手続きです。
前述の通り、破産管財人が債務者の財産を処分し、債権者に弁済・配当します。
申立書が曖昧なときや、本人に一定以上の保有財産がある場合に、管財事件として手続きが進められます。
任意整理や個人再生との違い
債務整理の手段には自己破産の他に「任意整理」と「個人再生」があります。
債務者の状況によっては、自己破産よりも任意整理や個人再生の方が適している場合もあります。
・任意整理
任意整理は利息を減額して元本を3~5年程度で完済できるようにする手続きです。
自己破産のように財産が没収されたり、官報に掲載されることはありません。
債務が大きな額でなく、安定した収入が見込めるのであれば、任意整理を選択するのが良いでしょう。
・個人再生
個人再生は借金をおよそ5分の1程度まで大幅に減額してもらう手続きです。
自己破産のように借金の理由は問われないため、ギャンブルや浪費が原因で借金をしたとしても、手続きが可能になります。
自己破産するほどの返済額ではなく、継続的な収入が見込めるのであれば、個人再生を選択するのが良いでしょう。
自己破産に対する誤解
自己破産には、実際よりもネガティブな印象を持つ人が少なくありません。
ここからはよくある自己破産への誤解や勘違いを紹介します。
必ず周囲にバレる
自己破産すると、官報に自分の名前が載るため、このようなイメージがついたのではないかと考えられます。
会社の同僚や友人に知られるかもしれないと思い、自己破産に踏み切れない人は多いのではないでしょうか。
しかし「必ず」バレるとは限りません。
官報を見る人は金融機関など、ごく一部です。
一般の人が官報を見ることはほとんどなく、官報に掲載されることで自己破産したことが周囲に知られる可能性は低いと言えます。
戸籍に載る
本籍地の市区町村役場には「破産者名簿」が備え付けられ、管理されています。
破産者名簿とは、破産手続開始、決定、確定等の通知を受けた場合に本籍地の市町村役場にて作成される名簿です。
この名簿は、士業などの資格を取得するために「破産者ではないことを証明する身分証明書」を発行可否を判断するのに使われます。
しかし、破産者名簿が戸籍などの公的記録と紐付けされることはありません。
自己破産をしても、そのことが戸籍に載ることはないのです。
会社を解雇される
制限職種に該当する仕事であれば、手続き中は一時的な休職などが必要になります。
しかし大半の職種の場合は、自己破産したことが仕事に影響することはありません。
自己破産を理由に会社を辞める必要はありませんし、会社側も自己破産を理由にして従業員を解雇することは、不当解雇にあたるためできないのです。
賃貸住宅に住めない
自己破産をしても、今住んでいる住居の賃貸契約には、原則として影響はありません。
自己破産をしたことを大家さんや管理会社に申告する義務はないためです。
ただし、家賃を滞納している場合は、今住んでいる賃貸住宅を出ていかなければならないケースもあります。
自己破産手続きをすると、他の借金と同じく、債権者へ借金を返済することが禁止され、家賃の支払いもできなくなるためです。
家賃を支払わないとなると、これを理由に、大家側からの賃貸契約の解除が認められることがあります。
そのため、今の住居の賃貸借契約を維持することは難しくなるでしょう。
しかしながら、新しく別の相手と賃貸借契約を結ぶことは問題ありません。
契約に従って家賃を支払うことができれば、問題なく家を借りることが出来ます。
選挙権が無くなる
自己破産をしても選挙権が無くなることはありません。
今まで通り、選挙で投票することができます。
給料を差し押さえられる
自己破産をしても給料に影響が出ることはありません。
自己破産は債務者の生活再建を目的の1つとしています。
そのため、自己破産をした後、給料を受け取れない状態になってしまっては意味がありません。
ギャンブルなどに浪費してはならないなど制約はありますが、給料は原則受け取ることができます。
年金や生活保護が受けられない
年金や社会保障などの社会保障制度と自己破産とは関係がありません。
自己破産で年金が処分の対象になることはありませんし、生活保護を受ける権利にも影響が出ることはないと言えます。
携帯電話を持てない
自己破産をしても携帯電話を持つことが出来ます。
ただし、自己破産前に携帯料金の滞納があった場合、同じ会社で継続して契約することは難しいでしょう。
また、携帯の機種を分割払いで購入する際、審査が入って分割払いで買うことができなくなる可能性はあります。
家族が肩代わりしないといけない
「自己破産すると家族に迷惑がかかるのでは」と漠然と不安に思う方はたくさんいます。
しかし、家族が自己破産した本人に代わって返済義務を負うことはありません。
自己破産をしたとしても、処分される財産はあくまで本人が所有するものだけであり、家族の仕事や収入に影響が出ることは無いと言えます。
ただし、債務の保証人が家族の場合は状況が異なります。
自己破産すると債権者への返済が原則禁止となるため、代わりに返済義務が保証人・連帯保証人へと移るからです。
自己破産のメリットを正しく理解して誤解や不安をなくすこと
この記事では、主に自己破産のメリット・デメリットや、自己破産に対するよくある誤解を紹介しました。
自己破産と言うと「何もかも終わりで、路頭に迷った生活を送るようになる」といったマイナスのイメージばかりが先行する人も多くいます。
しかし、自己破産を正しく理解すれば、生活再建のために制度を有効活用できるでしょう。
また、法律のプロである弁護士や司法書士に相談すると自己破産の手続きをスムーズに進めることができます。
早めに法律事務所に相談し、生活を立て直す第一歩を踏み出しましょう。
こんな方におすすめ
- 自己破産が認められれば、借金の返済を免除されるなどのメリットがある
- ただ、その反面新たな借入ができないといったデメリットもある
- 自己破産には条件があり、債務者の状況を総合的に考慮し裁判所が判断する
- 自己破産には誤解されている面が多いので、正しく自己破産を理解することが大切